キャリアパス要件は、処遇改善加算(福祉・介護職員等処遇改善加算)の区分を決める要件で、Ⅰ〜Ⅴの5つがあります。 加算Ⅳでも要件Ⅰ・Ⅱが要り、Ⅲで要件Ⅲ、Ⅱイで要件Ⅳ、Ⅰイで要件Ⅴが加わります。どれも「規程を書面で整え、職員に周知する」ことが前提なので、就業規則や賃金規程の見直しとセットで進めます。

この記事では、厚生労働省・こども家庭庁の通知「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度分)」(令和8年3月31日)と、「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」(令和8年4月9日)にもとづいて、各要件の中身と整え方を整理します。6月からの変更点は「令和8年6月からの処遇改善加算の変更点」、加算率は「処遇改善加算の加算率|サービス別一覧」で扱っています。


1. 区分ごとに要る要件

国の通知は、加算Ⅰイ(6月以降)を算定するには、月額賃金改善要件、キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅴ、職場環境等要件をすべて満たすこととし、下の区分ほど要らない要件を定めています。

要件ⅣⅢⅡイⅠイ
月額賃金改善要件(加算Ⅳ相当額の1/2以上を基本給等に)○○○○
キャリアパス要件Ⅰ(任用要件・賃金体系)○○○○
キャリアパス要件Ⅱ(研修の実施等)○○○○
キャリアパス要件Ⅲ(昇給の仕組み)―○○○
キャリアパス要件Ⅳ(年額460万円)――○○
キャリアパス要件Ⅴ(配置等要件)―――○
職場環境等要件○○○(区分の要件が重い)○(区分の要件が重い)

Ⅰロ・Ⅱロは、Ⅰイ・Ⅱイの要件に「令和8年度特例要件」(生産性向上や協働化の取組と、加算Ⅱロの額の2分の1以上を基本給等に充てること)を加えた区分です。


2. キャリアパス要件Ⅰ:任用要件と賃金体系

通知が求めるのは次の3点です。

  1. 福祉・介護職員の任用の際の、職位・職責・職務内容等に応じた任用等の要件(賃金に関するものを含む)を定めている
  2. その職位・職責・職務内容等に応じた賃金体系(一時金など臨時のものを除く)を定めている
  3. 1と2を就業規則等の書面で整え、全ての福祉・介護職員に周知している

書く中身の例:

職位任用の要件(例)賃金(例)
支援員入職時基本給の等級1
リーダー勤続3年以上、または法人の研修を修了等級2+役職手当
主任リーダーを2年以上、サビ管等の研修を修了等級3+役職手当

数字は例です。大切なのは、どの職位に、どういう条件で就き、そのとき賃金がどうなるかが、職員から見て読めることです。Q&A問4-6は、要件Ⅰは昇給の内容までは求めておらず、昇給の仕組みは要件Ⅲで求める、と区別しています。

常時雇用する者が10人未満の事業所など、就業規則の作成義務がない事業所は、内規等で整えて周知すればよいとされています。


3. キャリアパス要件Ⅱ:研修の計画と実施

通知が求めるのは次の2点です。

  1. 職員の職務内容等を踏まえ、職員と意見を交換しながら、資質向上の目標と、次のaまたはbの具体的な計画を立て、研修の実施または機会の確保をしている
    • a:計画に沿った研修機会の提供または技術指導(OJT・OFF-JTなど)と、職員の能力評価
    • b:資格取得のための支援(受講のための勤務シフトの調整、休暇の付与、交通費・受講料などの援助)
  2. 1を全ての福祉・介護職員に周知している

Q&A問4-4は、資質向上の計画に決まった様式や計画期間の定めはなく、賃金改善実施期間と合っていなくてもよいとしています。能力評価は、自己評価に対して先輩職員や管理者が評価する方法などが考えられるとされています(問4-5)。

整え方の例:年度の初めに職員と面談し、各職員の目標と受ける研修(法人内研修、強度行動障害支援者養成研修、サービス管理責任者研修など)を1枚にまとめ、受講のためのシフト調整や受講料の負担のルールを内規に書きます。


4. キャリアパス要件Ⅲ:昇給の仕組み

福祉・介護職員について、次のa〜cのいずれかの昇給の仕組みを設け、就業規則等の書面で整えて周知します。

方式中身注意点
a 経験に応じた昇給勤続年数・経験年数などに応じて昇給―
b 資格等に応じた昇給介護福祉士等の資格の取得や実務者研修等の修了に応じて昇給別法人で資格を取ってから入職した人も昇給が図られる仕組みにする
c 一定の基準で定期に判定実技試験や人事評価の結果に応じて昇給客観的な評価基準と昇給条件を明文化する

Q&Aでは次の点が示されています。

  • 昇給の方式は基本給・手当・賞与等を問わない(基本給が望ましい)(問4-7)
  • 非常勤職員を含め、雇用する全ての福祉・介護職員が対象となり得る仕組みにする。派遣職員を加算の対象にするなら、その職員にも仕組みを整える(問4-8)
  • 判定の時期は事業所の規模や経営状況に応じて決めてよいが、明文化する(問4-9)

就業規則の作成義務がない事業所は、要件Ⅰと同じく内規等で整えてかまいません。


5. キャリアパス要件Ⅳ:年額460万円以上

経験・技能のある福祉・介護職員のうち1人以上について、賃金改善後の見込額(加算による賃金改善を含む)を年額460万円以上にします。加算による改善の前から460万円以上の人は数えません。

Q&Aの主な扱いは次のとおりです。

論点扱い
460万円に含める範囲手当等を含める。社会保険料の事業主負担などの法定福利費は含めない(問5-1)
法人単位で申請する場合一括して申請する事業所の数以上の人数が法人全体にいればよい(問5-2)
対象の職員経験・技能のある職員。勤続10年以上の介護福祉士等を基本としつつ、事業所の裁量で設定でき、小規模で介護福祉士がいない場合は資格のない人を計上してもよい(問5-3)
予定していた職員が退職した場合指定権者に合理的な理由を説明すれば、要件を満たしたものと扱える(問5-4)
異なるサービスを一体的に運営就業規則が同じなど労務管理が一体なら、合わせて1人以上でよい(問5-5)

職場環境等要件の取組を全体で14以上実施している場合も、要件Ⅳを満たすとされています。小規模な事業所で460万円の職員を置くのが難しい場合は、こちらの道を検討します。


6. キャリアパス要件Ⅴ:配置等要件

福祉専門職員配置等加算(居宅介護・重度訪問介護・同行援護・行動援護は特定事業所加算)の届出を行っていることが要件です。

重度障害者等包括支援、施設入所支援、短期入所、就労定着支援、居宅訪問型児童発達支援、保育所等訪問支援は、配置等要件に当たる加算がないため、要件Ⅴは要りません。これらのサービスにⅡイ・Ⅱロの区分がないのはそのためです。

福祉専門職員配置等加算は、常勤の生活支援員等のうち社会福祉士・介護福祉士などの有資格者の割合や、常勤職員の割合・勤続年数で区分が決まります。要件Ⅴのために取るかどうかは、加算そのものの単位数と、処遇改善加算がⅡからⅠに上がる差額を合わせて判断します。区分ごとの割合と単位数は、サービスごとの告示と留意事項通知で確かめてください。


7. 令和8年度の誓約の扱い

令和8年度は、要件を申請の時点で整えていなくても、処遇改善計画書で令和9年3月末までに整えることを誓約すれば、申請の時点から満たしたものとして扱う特例があります。ただし、使える範囲が要件によって違います。

要件誓約で扱えるのは
キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ申請の時点で令和8年度特例要件を満たす事業所(Ⅰロ・Ⅱロなど)に限る
キャリアパス要件Ⅳ全ての事業所(460万円の賃金改善、または職場環境等の取組を全体で14以上)
職場環境等要件特例要件を満たす事業所。加算Ⅲ・Ⅳの「全体で8以上」は全ての事業所

誓約した場合は、令和9年3月末までに整え、実績報告書でその旨を報告します。報告の仕方は「処遇改善加算の実績報告」を参照してください。


8. 整える順番と落とし穴

  1. いまの規程を集める:就業規則、賃金規程、評価の様式、研修の記録を1か所に集めます。
  2. 区分の目標を決める:どの区分を取るかで、要る要件が決まります(第1章の表)。
  3. 要件Ⅰ→Ⅱ→Ⅲの順に書く:職位と賃金体系、研修の計画、昇給の仕組みの順に、書面にします。
  4. 周知の記録を残す:配布、掲示、説明会など、全職員に知らせた方法と日付を記録します。
  5. 就業規則を変えたら届け出る:常時10人以上を雇う事業所は、変更した就業規則を労働基準監督署に届け出ます。

落とし穴:

  • 規程はあるが、職員に周知した記録がない
  • 昇給の仕組みが常勤職員だけで、非常勤職員が対象になり得ない
  • 資格手当が「当法人で取得した場合」に限られ、入職前に資格を取った人が対象にならない
  • 人事評価で昇給を判定するのに、評価基準や昇給条件が書かれていない
  • 誓約したまま、令和9年3月末を過ぎる

チェックリスト

  • 職位ごとの任用の要件と賃金体系を、就業規則等の書面にした
  • 職員と意見を交換して、研修の計画(aまたはb)を立てた
  • 昇給の仕組み(a〜cのいずれか)を書面にし、非常勤職員も対象になり得る
  • 取る区分に応じて、460万円の職員または職場環境等の取組14以上を用意した
  • 全職員への周知の方法と日付を記録した
  • 誓約した要件の期限(令和9年3月末)を管理している

9. まとめ

  • 加算Ⅳでも要件Ⅰ・Ⅱが要る。Ⅲで要件Ⅲ、Ⅱイで要件Ⅳ、Ⅰイで要件Ⅴが加わる
  • 要件Ⅰ・Ⅲは就業規則等の書面と周知が前提。10人未満は内規等でよい
  • 要件Ⅳは年額460万円の職員1人以上か、職場環境等の取組を全体で14以上
  • 令和8年度の誓約は要件ごとに使える範囲が違い、期限は令和9年3月末

就業規則の具体的な書き方や、個別の労務の判断は、社会保険労務士などの専門家と、指定権者の案内で確かめてください。

参考資料