障害福祉サービスの開業は「法人を作る → 物件と人を確保する → 指定権者と事前協議する → 指定申請する → 毎月1日付で指定を受ける」という順に進みます。 最初に確かめるべきなのは、開業したい地域でそのサービスに総量規制がかかっていないかどうかです。京都市の就労継続支援B型や、宮崎県の児童発達支援のように、新規指定そのものを受け付けていない地域があります。

次に効いてくるのが申請の締切です。「指定希望月の前々月末日まで」とする自治体がある一方、事前協議を3〜4か月前までに終えることを求める自治体もあり、1日遅れると開業が1か月ずれます。さらに令和8年度(2026年度)の報酬改定では、令和8年6月1日以降に新しく指定を受ける放課後等デイサービス・児童発達支援・就労継続支援B型などに、少し引き下げた基本報酬(応急的な報酬単価)が適用されるようになりました。

このページでは、開業から指定までの流れを全体像として整理し、訪問介護の開業、資金、個人事業主での独立など、個別の論点を扱う記事へつなぎます。様式・期限・事前協議の運用は指定権者(都道府県・指定都市・中核市など)ごとに違うため、判断の前に必ず開業予定地の指定権者の手引きを確認してください。


開業から指定までの全体像

障害福祉サービスの事業所は、指定権者から「指定障害福祉サービス事業者」(障害児通所支援なら「指定障害児通所支援事業者」)の指定を受けて初めて、報酬(給付費)を請求できます。指定は事業所ごと・サービスの種類ごとに行われます(障害者総合支援法第36条第1項、児童福祉法第21条の5の15第1項)。

流れは次の6段階です。

段階主な作業注意点
1. 地域とサービスの確認総量規制の有無、市町村の障害福祉計画、競合の状況を調べる総量規制中の地域では新規指定を受けられない
2. 法人設立株式会社・合同会社・NPO法人・一般社団法人など定款の目的に障害福祉サービス事業を入れる
3. 物件の選定設備基準(訓練室・作業室・相談室など)と、建築基準法・消防法の確認契約前に指定権者・消防・建築の窓口に相談する
4. 事前協議・説明会指定権者の説明会受講、事前協議、市町村への事前相談サービスによって要否と期限が違う
5. 人員の確保管理者、サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者、直接支援の職員申請時に雇用(予定)と資格・研修の証明が要る
6. 指定申請と現地確認申請書類の提出、現地確認、指定(多くは毎月1日付)締切を1日でも過ぎると翌月以降の指定になる

段階2〜5は並行して進みます。特に児童発達支援管理責任者(児発管)・サービス管理責任者(サビ管)は、実務経験と研修修了の両方が要るため、採用に時間がかかります。採用の進め方は児発管の採用サビ管の採用で扱っています。


指定を受けるための要件

法人であること

指定は個人事業主では受けられません。障害者総合支援法第36条第3項第1号は「申請者が都道府県の条例で定める者でないとき」は指定をしてはならないとし、その条例の基準を定める同法施行規則第34条の21は「法人であることとする」としています(療養介護と、病院・診療所が行う短期入所を除く)。障害児通所支援も同じで、児童福祉法第21条の5の15第3項第1号と、同法施行規則第18条の34で法人であることが基準です(病院・診療所が行う児童発達支援を除く)。

株式会社・合同会社・NPO法人・一般社団法人のどれでも指定は受けられます。法人の種類ごとの費用と設立期間の違いは、個人事業主で独立できるかを整理した記事で比べています。定款の目的には、障害福祉サービスを行う旨を指定権者が確認できる書き方で入れておきます。たとえば大阪府内の複数の市町が共同で設置している広域事業者指導課(岸和田市のサイトで公表)は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービス事業」という記載例を示しています。

人員・設備・運営の基準を満たすこと

指定権者は、従業者の人員が条例の基準を満たさないとき、設備・運営の基準に従った運営ができないと認めるときも指定をしてはなりません(障害者総合支援法第36条第3項第2号・第3号)。主なサービスの要点は次のとおりです。配置の員数は利用定員によって変わるため、正確な数は指定権者の手引きで確認してください。

サービス人員の要点設備の要点
居宅介護(ホームヘルプ)従業者 常勤換算2.5人以上、事業の規模に応じたサービス提供責任者、常勤の管理者(指定障害福祉サービスの基準 第5条・第6条)事務室、相談のスペース、必要な設備・備品
児童発達支援・放課後等デイサービス管理者、児童発達支援管理責任者1人以上、児童指導員または保育士(障害児の数が10人までは2人以上、うち1人以上は常勤)指導訓練室、必要な設備・備品
就労継続支援B型管理者、サービス管理責任者、職業指導員・生活支援員(利用者数に応じた常勤換算の員数)訓練・作業室、相談室、洗面所・便所など

居宅介護の人員基準は、介護保険の訪問介護とほぼ同じ形です(常勤換算2.5人以上、サービス提供責任者、常勤の管理者)。訪問介護を少人数で立ち上げるときの考え方は訪問介護を一人で開業できるかを整理した記事で説明しています。


事前協議と指定申請の締切(自治体ごとの例)

締切の決め方は指定権者によって違います。公表資料で確かめられた例を並べます(2026年9月時点。各ページの記載による)。

指定権者・窓口事前協議・説明会申請の締切
大阪市生活介護・就労移行支援・共同生活援助などは、指定月の3か月前の月初から月末までに事前協議を完了。居宅介護・重度訪問介護・同行援護・行動援護などは事前協議不要例:2026年7月1日指定は、事前協議が4月1日〜30日、申請受付が5月20日〜6月10日
広域事業者指導課(岸和田市などの共同設置)事業開始日の3か月前の月末が事前協議の締切。居宅介護・重度訪問介護・同行援護・行動援護・重度障害者等包括支援は事前協議不要申請受付は事業開始日の前月
東京都(障害福祉サービス)訪問系・相談系を除き、都の事業者説明会(年6回程度)の受講が必要。説明会参加か事前相談を済ませないと書類を受理しない説明会の案内で確認
世田谷区(児童発達支援・放課後等デイサービス)都の指定協議説明会への参加が前提。指定を希望する月の4か月前までに区役所で複数回の面談指定を希望する月の前々月末日(午後5時必着)
荒川区(障害児通所支援)都の説明会参加後、区で複数回の事前相談(電話予約制)指定を希望する月の前々月の末日まで

表から分かるのは次の3点です。

  • 「前々月末」は目安の一つにすぎません。 大阪市のように申請受付の期間が決まっているところ、大阪府の広域事業者指導課のように「前月」に受け付けるところもあります。
  • 本当の締切は事前協議の側にあることが多いです。大阪市は3か月前の月内、世田谷区は4か月前までの面談を求めています。
  • 訪問系(居宅介護など)は事前協議が要らない自治体が多い一方、通所系・居住系は事前協議が必須です。

なお令和6年4月から、市町村が都道府県の指定に意見を申し出る仕組みが始まりました(障害者総合支援法第36条第6項〜第8項、児童福祉法第21条の5の15第6項〜第8項)。市町村の求めがあれば都道府県は指定の前に市町村へ通知し、市町村の意見を勘案して、指定に条件を付けることができます。東京都は令和8年度の案内で、訪問系以外は従来どおり事前相談が必須で、訪問系も「通知の求め」がある区市町村では事前相談が必須になると示しています。都道府県の窓口だけでなく、開業する市町村の障害福祉の担当課にも早めに相談してください。


総量規制:新規指定を受けられない地域がある

仕組み

都道府県知事は、特定のサービスについて、その地域の事業量が障害福祉計画(障害児福祉計画)で定める必要な量にすでに達しているか、指定によって超えるときなどは、指定をしないことができます(障害者総合支援法第36条第5項、児童福祉法第21条の5の15第5項)。これが一般に「総量規制」と呼ばれる仕組みです。

対象になりうるサービスは法令で決まっています。

  • 障害福祉サービス:生活介護、就労継続支援A型、就労継続支援B型(障害者総合支援法施行規則第34条の20)
  • 障害児通所支援:児童発達支援(肢体不自由児に治療を行うものを除く)、放課後等デイサービス(児童福祉法施行規則第18条の30の2)

居宅介護や就労移行支援、共同生活援助は、この総量規制の対象ではありません(ただし上で触れた市町村の意見申出の対象にはなります)。

公表されている実施例

地域対象内容(公表資料の記載)
京都市就労継続支援B型令和7年11月1日〜令和10年3月31日。新規指定、既存事業所の定員増、他圏域からの移転など定員が増える要素すべてが対象。その後は公募制に移る予定
姫路市就労継続支援B型令和7年4月2日〜令和9年9月30日。年度当初の定員合計が計画の見込量を一定以上超える場合に実施。旧4町(夢前町・香寺町・安富町・家島町)への設置などは対象外
宮崎県児童発達支援6つの圏域で令和7年10月1日から(西都児湯圏域は12月1日から)。主に重症心身障がい児を受け入れる事業所、共生型サービスなどは市町村の意見書で判断
芦屋市児童発達支援(放課後等デイサービスは解除)放課後等デイサービスは実績が計画を下回ったため令和8年9月1日に解除。児童発達支援は規制を継続

総量規制は、計画の見直しや実績の変化で始まったり解除されたりします。物件を契約する前に、開業予定地の指定権者と市町村に、そのサービスの現在の扱いを必ず確認してください。 規制中の地域でどうしても参入したい場合は、既存事業所の事業譲渡を受ける方法もあります。扱いと注意点は障害福祉事業のM&Aで整理しています。


令和8年度報酬改定:新規事業所の基本報酬が下がった

令和8年度障害福祉サービス等報酬改定(令和8年6月施行)では、近年の総費用額の伸びを受けて、令和8年6月1日以降に新規指定された事業所に限り、令和9年度報酬改定までの間、引き下げた基本報酬(応急的な報酬単価)が適用されます。こども家庭庁・厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について」(令和8年4月の審議会報告資料)によると、単価は次のとおりです。

サービス応急的な報酬単価
就労継続支援B型所定単位数の1000分の984
共同生活援助(介護サービス包括型・日中サービス支援型)所定単位数の1000分の972
児童発達支援所定単位数の1000分の988
放課後等デイサービス所定単位数の1000分の982

既存の事業所は従前どおりです。重度の障害のある人を支える体制の事業所や特別地域加算の対象地域などは、従前の単価が適用される配慮措置があります。新規開業の収支計画は、この引き下げ後の単価で組んでください。 改定の全体像は令和8年度の障害福祉の報酬改定、B型の報酬区分はB型の報酬区分と平均工賃で扱っています。


開業資金と融資

開業資金は「開業前にかかるお金」と「入金までをつなぐ運転資金」に分けて考えます。障害福祉サービスの給付費も、介護保険と同じく国民健康保険団体連合会(国保連)への請求を経て支払われるため、サービスを提供してから入金まで2か月前後かかります。 その間も人員基準を満たす職員の給与と家賃は毎月出ていくため、運転資金を数か月分持っておく必要があります。請求の流れは国保連への請求の流れを参照してください。

資金調達の代表は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。公庫のページでは、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方を対象に、融資限度額7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内)とされています。自治体の創業支援(特定創業支援等事業)を受けると、会社設立の登録免許税の軽減などを受けられます。

内訳の見積もり方と運転資金の計算は、訪問系を例に訪問介護の開業資金と資金調達で詳しく扱っています。通所系は物件と内装の比重が大きくなりますが、考え方は同じです。


介護事業所の開業との違い

障害福祉と介護保険は、流れは似ていますが、根拠法と指定権者、規制の形が違います。

項目障害福祉サービス・障害児通所支援介護保険サービス
根拠法障害者総合支援法、児童福祉法介護保険法
指定権者都道府県・指定都市・中核市など(障害児通所支援は児童相談所設置市なども)居宅サービスは都道府県・指定都市・中核市、地域密着型サービスと居宅介護支援は市町村
法人要件法人であること(上記の施行規則)法人であること(介護保険法施行規則第126条の4の2。病院・診療所が行う一部のサービスを除く)
数量の規制生活介護・A型・B型・児発・放デイに総量規制の仕組み地域密着型サービスの公募、特定施設の総量規制など
必須の責任者サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者(実務経験と研修)訪問介護のサービス提供責任者、居宅介護支援の管理者など
利用者側の手続き市町村の支給決定と受給者証要介護・要支援の認定
令和8年度改定新規事業所に応急的な報酬単価処遇改善加算の拡充が中心で、基本報酬の見直しは行われていない

介護保険側の指定の流れとサービス別の違いは介護事業所の開業で整理しています。訪問介護と居宅介護を同じ事業所で併せて指定を受ける形は多く、訪問系で開業する場合は両方の手引きを並べて読むと効率的です。


開業準備でつまずきやすい点

  • 物件を先に契約してしまう。 設備基準を満たさない、用途変更や消防設備の工事が要る、総量規制で指定を受けられない、といったことが契約後に分かると取り返せません。事前協議の前に契約しないのが原則です。
  • 児発管・サビ管の要件を確かめずに採用を決める。 実務経験の年数と研修の修了が要件です。資格証や実務経験証明書を集めて、事前協議の場で要件を満たすか確認してもらいます。
  • 事前協議を「申請の直前」と思っている。 上の表のとおり、3〜4か月前の協議が締切になっている自治体があります。
  • 申請書類をコンサルタント任せにする。 世田谷区は面談へのコンサルティング会社の同席を認めないとしています。書類作成を専門家に頼む場合も、運営する本人が基準を理解している必要があります。
  • 開業後の運営指導を見据えていない。 指定後は運営指導で、人員配置や記録が基準どおりかを確かめられます。準備の段階から運営指導の準備の観点で書類を整えておくと、後の手戻りが減ります。

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開業と指定申請に関する記事は次のとおりです。

開業後の集客は福祉事業所の集客の全体像、放課後等デイサービスの事業設計は放デイの差別化も参考にしてください。