ヘルパーが個人事業主のまま、介護保険の訪問介護事業所として指定を受けることはできません。 介護保険法第70条第2項第1号と同法施行規則第126条の4の2で、指定居宅サービス事業者の指定を受ける者は、病院などの一部を除いて「法人であること」とされているためです。障害福祉の居宅介護(ホームヘルプ)も同じで、障害者総合支援法第36条第3項第1号と同法施行規則第34条の21で法人に限られています。
個人事業主として独立してできるのは、介護保険や障害福祉の給付を使わない、自費(保険外)のサービスです。保険の訪問介護として報酬を受け取りたいなら、法人を設立して指定を受けることになります。
以下では、個人でできることとできないことの境界、登録ヘルパーとして働く場合との違い、法人で独立する場合の法人の種類の選び方を整理します。開業から指定までの全体の流れは開業と指定申請の流れにまとめています。
個人事業主にできないこと
指定を受けて介護報酬を請求すること
介護保険の訪問介護で国民健康保険団体連合会(国保連)に介護報酬を請求できるのは、都道府県知事(指定都市・中核市では市長)の指定を受けた事業者だけです。指定の要件は大きく次の3つで、個人事業主は最初の「法人であること」を満たせません。
| 要件 | 根拠 |
|---|---|
| 申請者が法人であること | 介護保険法第70条第2項第1号、同法施行規則第126条の4の2 |
| 人員の基準を満たすこと | 訪問介護員等が常勤換算2.5人以上、常勤のサービス提供責任者、常勤の管理者(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 第5条・第6条) |
| 設備・運営の基準を満たすこと | 事業の運営に必要な広さの専用の区画など(同基準 第7条ほか) |
仮に法人を作っても、自分1人だけでは人員の基準を満たせません。最少人数での組み方は訪問介護を一人で開業できるかで詳しく扱っています。
市町村が認める「基準該当」という例外
介護保険法第42条第1項第2号には、指定の基準は満たさないものの、市町村が定める基準を満たす事業者のサービスを「基準該当居宅サービス」として保険の対象にできる仕組みがあります。基準該当の訪問介護は、訪問介護員等3人以上、そのうち1人以上をサービス提供責任者とすることが基準です(同基準 第40条ほか)。
ただし基準該当サービスを認めるかどうかは市町村の判断で、法人格を問わない一方で、どの地域でも使える仕組みではありません。検討する場合は、開業予定地の市町村の介護保険担当課に、基準該当サービスを認めているかを直接確認してください。
個人事業主にできること
自費(保険外)の訪問サービス
介護保険の給付を使わないサービスであれば、法人格も指定も必要ありません。たとえば次のようなものです。
- 介護保険では対象外になる家事(大掃除、庭の手入れ、家族の分の調理など)
- 通院や買い物、外出の付き添いのうち、保険の範囲を超える部分
- 見守りや話し相手、入院中の身の回りの支援
- 保険の支給限度額を超えて利用したい人への追加のサービス
料金は事業者が決め、全額を利用者から受け取ります。ケアマネジャーのケアプランに組み込まれなくても提供できるため、1人でも始められます。
保険のサービスと組み合わせるときのルール
将来、法人で訪問介護の指定を受けたあとに自費のサービスも続ける場合は、厚生労働省の通知「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」(平成30年9月28日、介護保険最新情報Vol.678)に従います。この通知では、訪問介護の前後に連続して保険外のサービスを提供することや、訪問介護の提供中にいったん中断して保険外のサービスを提供することの取扱いが示されており、次のような点が求められています。
- 保険外のサービスの目的・運営方針・利用料などを、訪問介護の運営規程とは別に定めること
- 保険外のサービスの内容・提供時間・料金を、利用者に文書で説明して同意を得ること
- 保険外のサービスの提供時間を、訪問介護の提供時間に含めないこと
- 会計を訪問介護の事業と区分すること
- ケアマネジャーに、保険外のサービスの内容や提供時間を報告すること
個人事業主の段階から、料金表・契約書・記録を「保険外のサービス」として独立させておくと、法人化後にそのまま移行しやすくなります。
個人事業主として始めるときの注意
- 医療的なケアはできる範囲が限られます。 喀痰吸引などは、法律で定められた登録や研修を前提とする行為です。自費サービスだからといって、介護保険の現場でできないことができるようになるわけではありません。
- 事故への備えが必要です。 利用者の家財の破損や転倒の事故に備え、個人事業主が加入できる賠償責任保険を検討してください。
- 開業届と税の手続き。 個人事業として始める場合は、税務署への開業届などの手続きがあります。青色申告の選択、消費税の扱いは税理士か税務署に確認してください。
登録ヘルパーや業務委託との違い
「独立」と「登録ヘルパー」は混同されがちですが、立場がまったく違います。
| 働き方 | 立場 | 介護保険の訪問介護を提供できるか | 収入の決まり方 |
|---|---|---|---|
| 登録ヘルパー(非常勤) | 訪問介護事業所に雇用される労働者 | できる(事業所の訪問介護員として) | 事業所が定める時給・件数単価 |
| 個人事業主(自費サービス) | 自分で事業を営む | できない | 自分で決めた料金を利用者から受け取る |
| 法人を設立して指定を受ける | 法人の代表者 | できる(法人として) | 介護報酬+利用者負担。職員の給与を払う側になる |
事業所から「業務委託」で訪問を受ける形はどうか
個人事業主のまま、指定を受けた事業所から訪問を請け負う形を考える人もいます。しかし基準第30条第2項は、訪問介護は「当該指定訪問介護事業所の訪問介護員等によって」提供しなければならないとしています。障害福祉の居宅介護の解釈通知では、この「従業者」を、雇用契約その他の契約により事業所の管理者の指揮命令下にある者と説明しています。
つまり契約の名前が業務委託でも、実態としては事業所の指揮命令を受けて働くことになり、働く時間や方法を自分で決める「独立した事業者」とは言いにくくなります。契約の形は、社会保険労務士など専門家に確認したうえで決めてください。
法人で独立する場合の選び方
保険の訪問介護を提供したいなら、法人の設立が必要です。介護保険の指定を受けるうえでは、法人の種類で有利・不利はありません。違いは設立の手間と費用、社外からの見え方です。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 | 一般社団法人 | NPO法人 |
|---|---|---|---|---|
| 設立に必要な人数 | 発起人1人以上 | 社員1人以上 | 設立時社員2人以上 | 社員10人以上、理事3人以上・監事1人以上 |
| 定款の認証 | 公証人の認証が必要(手数料3万〜5万円。一定の小規模な設立は1万5千円) | 不要 | 公証人の認証が必要(手数料5万円) | 所轄庁(都道府県・指定都市)の認証を受ける |
| 登録免許税 | 資本金の1000分の7(最低15万円) | 資本金の1000分の7(最低6万円) | 6万円 | 会社とは扱いが異なる(法務局で確認) |
| 設立までの期間の目安 | 書類がそろえば短期間 | 書類がそろえば短期間 | 書類がそろえば短期間 | 申請後、縦覧期間(2週間)の経過後2か月以内に認証の決定。その後に登記 |
| 利益の分配 | できる | できる | できない | できない |
紙の定款には4万円の収入印紙が必要ですが、電子定款なら不要です。株式会社の定款認証手数料は、令和6年12月1日から、発起人が全員自然人で3人以下、発起人が設立時発行株式の全部を引き受け、取締役会を置かないなどの要件を満たす場合に、資本金100万円未満で1万5千円となりました(日本公証人連合会)。NPO法人の人数と認証の期間は、特定非営利活動促進法第12条・第15条によります。
選び方の考え方
- 1人か少人数で早く始めたい: 合同会社か株式会社。設立の人数の要件がなく、書類がそろえば短期間で設立できます。費用を抑えたいなら合同会社です。
- 共同で経営する仲間がいる: 株式会社なら出資と経営の関係を整理しやすくなります。
- 地域活動の延長として非営利で運営したい: NPO法人や一般社団法人。ただしNPO法人は10人以上の社員と所轄庁の認証が必要で、指定の申請の締切から逆算すると時間の余裕が必要です。
設立の法定費用と、開業後の運転資金の見積もり方は訪問介護の開業資金で、指定申請の流れと締切は介護事業所の開業と指定申請で確認してください。
独立を考えるときにつまずきやすい点
- 「資格があれば個人で保険の訪問介護ができる」と思い込む。 介護福祉士や実務者研修の資格は、訪問介護員やサービス提供責任者として働くための要件です。事業者として指定を受けるには、別に法人格と人員体制が必要です。
- 自費の料金を低くしすぎる。 移動時間、キャンセル、保険料、事務の時間を含めずに時給感覚で料金を決めると、続けるほど赤字になります。
- 法人を作ってから人を探す。 指定の申請には、人員の基準を満たす職員の名簿や資格証の写しが必要です。一緒に働く人のあては、法人の設立の前に作っておいてください。採用の進め方は介護職員の採用・定着を参照してください。


