事業所工賃向上計画は、各年度の目標工賃月額と、それを達成するために各年度に取り組む具体的方策を書く計画です。 国の「工賃向上計画を推進するための基本的な指針」(平成24年4月11日障発0411第4号、令和6年3月29日改正)は、令和6年度から令和8年度までの3年間について、都道府県が計画を作り、事業所もそれにもとづいて計画を作ることを求めています。
計画は出して終わりではありません。目標工賃は前年度以上とし、毎年度に前年度の実績を点検して計画を見直します。目標工賃達成加算は、この計画に掲げた目標の達成が要件です。この記事では、指針が示す盛り込む事項と留意事項にそって、書き方の順に整理します。平均工賃月額による報酬区分は、令和6年度報酬改定と令和8年6月の見直しを前提にしています。
1. 計画に盛り込む事項と提出
盛り込む事項
指針が事業所工賃向上計画に盛り込むとしている事項は、次の3つです。
- 令和8年度までの各年度の目標工賃月額
- 令和8年度までの各年度に取り組む具体的方策
- その他の事項
目標工賃月額は、令和6年度から見直された計算方法(前年度の工賃支払総額 ÷ 開所日1日あたりの平均利用者数 ÷ 12か月)で出す平均工賃月額と同じ物差しで書きます。計算の詳細は「就労継続支援B型の報酬区分」で扱っています。
提出と公表
| 手続き | 指針の定め |
|---|---|
| 作成 | 令和6年5月末までに策定(B型サービス費(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)は、令和6年4月に作成していない場合は算定できない) |
| 提出 | 令和6年5月末日までに都道府県へ |
| 公表 | 計画と工賃実績を、可能な限りWAMネット(障害福祉サービス等情報検索ウェブサイト)や事業所のホームページで |
| 見直し | 各年度に前年度の実績を踏まえて点検・評価し、見直した場合は各年度5月末日までに都道府県へ |
計画期間は令和8年度までです。令和9年度以降の計画の作成時期・様式は、国の新しい指針と都道府県の案内を確認してください。様式や提出方法は都道府県ごとに定めているので、所在地の都道府県の工賃向上計画のページで確かめます。
2. 現状分析と工程表
指針は、管理者が率先して取り組むことが重要だとして、次のことを求めています。
- 管理者が、目標達成に向けた具体的な取組のプロセスを書いた工程表を作り、全職員・利用者・家族に示して理解を得る
- 目標工賃を達成するための年次予算計画を職員全体で検討する
- 個別支援計画にもとづく支援を通じて、利用者の就労意欲の向上と自立を促すための課題を整理する
現状分析では、次の数字を並べておくと、目標と方策が書きやすくなります。
| 項目 | 見る内容 |
|---|---|
| 平均工賃月額の推移 | 過去3年分。区分の境目までいくら足りないか |
| 生産活動の収支 | 作業の種類ごとの売上、必要経費、利益 |
| 作業ごとの時間あたりの利益 | 同じ時間でどの作業がいくら残るか |
| 利用者の状況 | 1日平均の利用者数、利用時間、得意な工程 |
| 取引先 | 取引先ごとの売上の割合、単価、継続の見込み |
3. 目標工賃の決め方
勘案する4つの項目
指針は、令和6年度から令和8年度までの目標工賃を、次の項目を勘案して設定することが望ましいとし、各年度の目標工賃も設定することとしています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| a | 事業所の令和5年度の平均工賃実績 |
| b | 地域の実情を踏まえ、障害年金と合算して、地域で自立した生活を送るために必要な収入 |
| c | 地域の最低賃金や、一般雇用されている障害者の賃金の状況 |
| d | 都道府県の目標工賃 |
工賃目標は前年度以上とされています。
目標から必要な売上に戻す
目標工賃月額を決めたら、年間の工賃総額と、それに必要な生産活動の収支に戻して、方策の大きさを確かめます。
年間の工賃総額 = 目標工賃月額 × 開所日1日あたりの平均利用者数 × 12か月
例えば、目標工賃月額2万4千円、1日平均18人なら、年間の工賃総額は 24,000円 × 18人 × 12か月 = 518万4千円です。前年度の工賃総額が450万円なら、生産活動の収支(収入 − 必要経費)を年約68万円増やす必要があります。これを「どの作業で、いくら」に分けたものが、次の具体的方策になります。
目標工賃達成加算を取る場合
目標工賃達成指導員配置加算の対象事業所が目標工賃達成加算(1日10単位)を取る場合、工賃目標は「前年度の事業所の平均工賃月額 +(前々年度の全国平均工賃月額 − 前々々年度の全国平均工賃月額)」以上でなければなりません。計算の例は「目標工賃達成指導員配置加算」を参照してください。
4. 具体的方策の書き方
指針は、各年度に取り組む具体的方策として、次のような取組を挙げています。
| 方策 | 計画に書く例 | |
|---|---|---|
| a | 事業所内の意識改革 | 工賃の意義を共有する職員会議・利用者説明会の時期と回数 |
| b | コンサルタント・企業OBの受け入れ | 商品開発、市場開拓、作業効率の改善のテーマと時期 |
| c | 共同受注 | 地域の事業所との共同受注窓口への参加、受ける作業の種類 |
| d | 施設外就労 | 人手不足の企業等での施設外就労先の確保の目標数 |
| e | 在宅での支援 | 在宅利用者への支援の検討と、提供する作業 |
| f | 地域の企業・団体との連携 | 商工会議所、商店街、農業事業者、伝統産業などへの働きかけと目標件数 |
| g | 研修への参加 | 都道府県等の研修会への参加予定 |
| h | 市町村との連携 | 市町村の地域課題の把握と、それに応える事業 |
方策は数字と時期で書く
方策は、「販路を広げる」ではなく、「令和◯年度に新規の取引先を◯件、売上を月◯万円増やす」「◯月までに作業の手順を見直し、1時間あたりの出来高を◯%上げる」のように、年度・数字・担当を入れて書きます。こうしておくと、翌年度の点検で何が効いたかを確かめられます。
指針は、都道府県から市町村への協力依頼として、障害者優先調達推進法にもとづく調達方針の策定・公表と、官公需の促進を挙げています。市町村の調達方針と発注の窓口を確かめ、方策に入れておくのも一つの方法です。
5. 点検・見直しと落とし穴
毎年度の見直し
- 4月:前年度の工賃実績を集計し、都道府県へ報告。利用者に前年度の実績と今年度の目標を知らせる
- 4〜5月:方策ごとの結果(売上・取引先・出来高)を点検し、効かなかった方策を入れ替える
- 5月末まで:見直した計画を都道府県へ提出
- 年度中:工程表にそって月ごとに生産活動の収支を確かめる
工賃の計算と支払いのルールは「就労継続支援B型の工賃規程」で整理しています。
落とし穴
- 目標工賃を前年度より下げて書いた:指針は前年度以上としています
- 方策が抽象的で、翌年度に点検できない
- 目標工賃と、必要な生産活動の収支の増加額がつながっていない
- 見直したのに5月末までに提出していない
- 工程表や年次予算を職員・利用者に示していない
様式・提出先・公表の方法は都道府県によって違います。指定権者と都道府県の案内で確認してください。
6. まとめ
- 事業所工賃向上計画には、各年度の目標工賃月額と各年度の具体的方策を書く
- 目標工賃は前年度以上とし、前年度の実績、障害年金と合わせた必要な収入、最低賃金などの状況、都道府県の目標を勘案する
- 目標工賃は年間の工賃総額と生産活動の収支に戻し、方策の大きさを確かめる
- 方策は年度・数字・担当を入れて書き、毎年度点検して、見直しは5月末までに提出する
- 令和9年度以降の計画は、国の新しい指針と都道府県の案内を確認する
事業の収支の考え方は「経営・財務」の記事にまとめています。
参考資料
- 厚生労働省「工賃向上計画を推進するための基本的な指針」の一部改正について(令和6年3月29日障発0329第42号)(福岡県掲載): https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/813438_62861699_misc.pdf
- 福岡県「工賃向上計画(令和6年度〜令和8年度)」: https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/kouchinkuojyou-r6.html
- 厚生労働省「就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について」(令和7年3月31日障障発0331第2号): https://www.mhlw.go.jp/content/001473458.pdf
- 厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービス等及び基準該当障害福祉サービスに要する費用の額の算定に関する基準等の制定に伴う実施上の留意事項について」(平成18年10月31日障発第1031001号)令和8年5月28日一部改正 新旧対照表: https://www.mhlw.go.jp/content/001705650.pdf


