障害福祉サービス事業所を運営する経営者様、管理者様にとって、数年に一度訪れる「指定更新(更新申請)」は、事業存続に関わる最も重要な行政手続きです。
「5年ごとだったか、6年ごとだったか?」
「開設当初と書類の様式が変わっているのではないか?」
「実地指導(運営指導)とセットでチェックされるのか?」
こうした不安をお持ちの方も多いでしょう。
結論から申し上げます。指定更新は、単なる「書類の提出作業」ではありません。過去数年間の運営体制が法令に適合しているかを再確認し、将来にわたって健全な経営を続けるための「事業の免許更新」であり「強制的な経営診断」です。
事務員任せにしていては危険です。ここで「変更届の出し忘れ」や「人員基準の誤解」が発覚すれば、最悪の場合、指定取り消しや報酬返還に直結します。
本記事では、障害福祉サービスの指定更新における正確な期間(6年ルール)、具体的な申請の流れ、必要書類、そして更新時に躓かないための「経営カイゼン」視点での注意点を、専門家の視点で徹底解説します。
1. 障害福祉サービスの「指定更新」とは?基本ルールの確認
まず、最も基本的な「期間」と「更新の重要性」について整理します。検索キーワードではケアマネジャー(介護支援専門員)の更新研修などと混同され「5年ごと」と誤解されることが多いですが、正確な法的ルールを把握しておきましょう。
指定の有効期間は「6年間」です
障害福祉サービス事業者の指定有効期間は、障害者総合支援法第41条等の規定により「6年間」と定められています。
指定を受けた日(開設日)から6年が経過すると、指定の効力が失われます。そのため、6年ごとに更新の手続き(指定の更新)を行う必要があります。原則: 指定日から6年後の前日までが有効期間。
例外(期間短縮): 同一法人で複数の事業所やサービス(居宅介護と重度訪問介護など)を運営している場合、更新時期を統一するために、あえて有効期間を短縮して合わせる特例措置をとっている自治体もあります。必ずお手元の「指定通知書」で満了日を確認してください。
更新を忘れるとどうなるか?(指定失効のリスク)
万が一、有効期間満了日までに更新手続きを行わなかった場合、指定の効力を失います(指定失効)。
失効すると、翌日からは「無認可状態」となり、介護給付費(報酬)の請求が一切できなくなります。利用者様へのサービス提供も継続できなくなるため、事実上の「廃業」を意味します。
「うっかり忘れていた」では済まされない、経営者の最優先管理事項です。
2. 指定更新申請の具体的な「流れ」と「スケジュール」
更新手続きは、有効期間満了日の直前に慌てて行うものではありません。特に人員基準に関わる問題が発覚した場合、リカバリーに時間がかかるため、余裕を持ったスケジュール管理が必要です。
ステップ1:案内通知の確認と事前準備(3〜6ヶ月前)
多くの自治体(指定権者)では、有効期間満了の数ヶ月前に「更新手続きの案内」が郵送またはメールで届きます。
【注意】 自治体によっては通知がない場合や、見落としやすいメールで届く場合もあります。「通知が来なかったから遅れた」は通用しません。自社でカレンダー管理を徹底してください。
この段階で、自治体のホームページから最新の「更新申請の手引き」と「様式」をダウンロードします。6年前とは様式が変更されているケースが大半です。
ステップ2:必要書類の作成・収集と「現状分析」(2〜3ヶ月前)
更新申請には、従業員の勤務体制、資格証の写し、損害賠償保険の証書などが必要です。
ここで重要なのは、「書類を作る」ことではなく「実態と書類の整合性を確認する」ことです。 管理者が変更になっているのに、変更届を出していないことはないか?
定款の事業目的に変更はないか?
社会保険・労働保険の加入状況は適正か?(未加入は更新要件を満たさない場合があります)
ステップ3:申請書類の提出と手数料納付(1〜2ヶ月前)
自治体が指定する締切日までに書類を提出します。
提出方法は、郵送、窓口持参、あるいは近年導入が進んでいる電子申請システムなど、自治体によって異なります。
また、自治体によっては数千円〜数万円程度の「更新手数料」の納付が必要になる場合があります。
ステップ4:審査・受理・新しい指定通知書の交付
提出された書類に基づき、人員基準や設備基準、運営基準を満たしているか審査が行われます。
軽微な不備であれば補正を求められますが、重大な基準違反(人員欠如など)が見つかった場合、更新が認められない可能性があります。問題がなければ、新しい「指定通知書」が交付されます。
3. 指定更新に必要な「書類」一覧と審査の視点
新規指定申請の時と同様の書類が必要になりますが、審査担当者は「過去の届出との矛盾」を見ています。
※自治体により詳細が異なるため、必ず管轄の役所の手引きを確認してください。
主な提出書類とチェックポイント
- 指定更新申請書: 表紙となる書類。
- 付表: サービス種類ごとの詳細情報(定員、設備概要など)。
- 従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表: いわゆる「勤務表」。申請月の前月分(または当月分)の実績・予定を提出。※ここで常勤換算が満たされているか厳密に見られます。
- 資格証の写し: 管理者、サビ管(児発管)、有資格スタッフの免許証コピー。原本証明を求められる場合もあります。
- 実務経験証明書: 新たに採用したスタッフや、配置変更があった場合。
- 平面図・設備写真: レイアウト変更や部屋の用途変更をしていないか。
- 運営規程: 最新の法令(虐待防止、身体拘束適正化など)に対応した文言になっているか。
- 苦情処理の措置: 苦情受付窓口の概要など。
- 損害賠償責任保険の証書: 保険期間が切れていないか、更新されているか。
- 誓約書: 法人役員等が欠格事由に該当しないことの誓約。
- 役員名簿: 法人の役員一覧。
- 社会保険及び労働保険への加入状況にかかる確認票: 適正な加入が更新の前提です。
「省略可能」な書類の落とし穴
「前回提出時から変更がない場合」に限り、定款や平面図などの提出を省略できる自治体があります。
しかし、「変更があったのに変更届を出していなかった」ことが、更新審査の過程で発覚するケースが多々あります。
これは「届出義務違反」として指導対象となります。「省略できるからラッキー」と思わず、現状と合致しているか必ず点検してください。不安な場合は、省略せずに現状の正しい書類を出し直す方が「修正」の意味も含めて安全な場合があります。
4. ここで躓く!更新申請時の「重要注意点」と「経営カイゼン」
指定更新は、行政側が「この事業所は適切に運営されているか」をチェックするタイミングです。ここで不備が発覚すると、更新手続きがストップするだけでなく、実地指導(運営指導)に発展し、最悪の場合は過去の報酬返還を求められるリスクがあります。
① 人員配置基準の遵守(常勤換算の罠)
更新審査で最も厳しく見られるのが「人員基準」です。
常勤換算上の週数(32時間ルールや40時間ルール)を誤解していないか?
サービス管理責任者(児童発達支援管理責任者)の欠員はないか?
前年度の利用者数が増加しているのに、スタッフ数が据え置きで基準を割っていないか?
特に、「退職したスタッフが含まれたままの体制届」になっていた場合、実態として基準欠如(減算対象)の状態を隠していたとみなされ、数年分の報酬返還という経営的な致命傷になりかねません。
② 運営規程と重要事項説明書の整合性
法改正により、運営規程に記載すべき内容は頻繁に変わります。
虐待防止委員会の設置
身体拘束等の適正化
BCP(業務継続計画)の策定
ハラスメント対策
開設当初(6年前)の古い運営規程を使い回していないでしょうか? 最新の法改正に対応していない運営規程を提出すると、「法令等の情報をキャッチアップできていない事業所」としてマークされます。
③ 「変更届」の出し忘れ=時限爆弾
法人の住所や代表者が変わった
事業所の電話番号が変わった
定員を変更した
加算の要件が変わった
これらの変更届が未提出の場合、更新申請の前に(あるいは同時に)変更届を提出し、整合性を取る必要があります。「更新のついでに変えればいい」という安易な考えは危険です。変更事由が発生してから10日以内の届出が原則だからです。遅延理由書の提出を求められることもあります。
④ 更新を機に「経営」を見直す
指定更新の準備は、自社の経営状態を客観的に見直す絶好の機会です。
書類を整理する中で、「特定のスタッフに業務が集中している」「稼働率が下がっているのに人員配置が過剰になっている」「加算が取れる体制なのに取っていない」といった課題が見えてくるはずです。
「法令遵守(コンプライアンス)」と「収益性」は両輪です。
ただ手続きを終わらせるだけでなく、次の6年間を見据え、安定した利用者獲得(集客)と効率的な運営体制の構築(DX化など)に意識を向けましょう。
まとめ:更新は「次の6年」へのスタートライン
障害福祉サービスの指定更新は、6年ごとの必須手続きであり、事業所としての「適格性」を問われる重要な節目です。
- 有効期間は6年。 満了日を必ず確認し、カレンダーに登録する。
- 3〜6ヶ月前から準備開始。 最新の手引きを入手し、法改正箇所をチェックする。
- 人員基準と変更届の漏れを徹底的に洗い出し、不備があれば即座に是正する。
無事に更新を完了させたら、次は「選ばれる事業所」として、地域での信頼と集客力を高めていくステージです。安定した経営基盤の上にしか、質の高い支援は成り立ちません。
もし、日々の運営における法令遵守の不安、加算取得の悩み、そして「利用者様が集まらない」といった集客の課題をお持ちであれば、福祉業界に特化した経営ノウハウを活用することも一つの手です。
