放課後等デイサービスや児童発達支援事業所を経営されている皆様、日々の運営お疲れ様です。「福祉経営カイゼン室」編集部です。
事業所の経営を安定させ、かつ地域で「選ばれる」存在になるためには、基本報酬だけでなく「加算」を戦略的に取得することが不可欠です。中でも、経営者として今、最も注目すべきなのが「強度行動障害児支援加算」です。
しかし、この加算には「単価が高いから」という安易な理由だけで飛びついてはいけない落とし穴があります。
「研修に行かせれば取れる」と考えていると、現場の疲弊や離職、最悪の場合は事故につながるリスクがあるからです。
本記事では、障害福祉経営のプロフェッショナルな視点から、強度行動障害児支援加算の算定要件や単位数といった基礎知識に加え、現場を崩壊させずに収益化するための「経営判断のポイント」までを深く掘り下げて解説します。
この加算は、覚悟を持って取り組めば、地域の困っているご家族を救い、貴所の経営基盤を盤石にする最強の武器となります。
強度行動障害児支援加算とは?【収益インパクトの試算】
まずは、この加算がなぜ設定されているのか、そして経営的にどれほどのインパクトがあるのか、数字を交えて具体的に解説します。
加算の目的:地域課題への対応
強度行動障害児支援加算は、自傷・他害・激しいこだわりなどにより、生活環境への適応が著しく困難な児童に対し、専門的な知識を持ったスタッフを配置して適切な支援を行った場合に評価される加算です。
行政の意図は明確です。「受け入れが困難な児童を断らず、専門性を持って支援する事業所を優遇する」ということです。これは、地域の福祉インフラとしての責務を果たすことと同義です。
取得できる単位数と収益シミュレーション
算定される単位数は以下の通りです。
- 強度行動障害児支援加算:155単位/日
※令和6年度(2024年度)報酬改定等の最新情報は、必ず指定権者(自治体)の最新の手引きをご確認ください。
【経営インパクトの試算】
地域区分単価を10円~11.2円程度と仮定し、ざっくり「1単位=10円」で計算してみましょう。1日あたりの増収: 1,550円
月間(20日利用)の増収: 31,000円/人
もし、事業所に強度行動障害の判定が出る児童が5名在籍していた場合、
31,000円 × 5名 = 月間 約15.5万円
年間 約186万円 の売上アップとなります。
これは、スタッフ1名分の人件費の一部、あるいは賞与原資を賄える金額です。経営者としては無視できない数字と言えるでしょう。
【完全解説】算定要件の3つの壁と実務ポイント
この加算を算定するためには、単に「大変な子がいます」というだけでは認められません。以下の3つの要件を確実にクリアし、エビデンスを残す必要があります。
1. 人員配置の壁:研修修了者の「実配置」
最もハードルが高いのが「人」の要件です。要件: 「強度行動障害支援者養成研修(基礎研修)」を修了した職員を配置し、その職員が対象児童の支援を行うこと。
【カイゼン室の指摘:ここが落とし穴】
「事業所に1人いればいい」わけではありません。「加算を算定する日に、研修修了者が勤務し、支援を行っていること」が必要です。
つまり、研修修了者が休みの日に、代わりの修了者がいなければ、その日の加算は算定できません。シフト管理においては、研修修了者を複数名育成し、ローテーションを組める体制が必須となります。
2. 対象児童の壁:判定スコアの厳格さ
すべての児童が対象ではありません。厚生労働大臣が定める基準(行動関連項目等)に基づき、スコアリングを行う必要があります。評価項目: 12項目(自傷、他害、器物破損、パニック、多動など)
基準: 合計点数が20点以上(※自治体や改定により変動あり要確認)
【実務のポイント】
この判定は、保護者からの聞き取りや日々の観察記録(ケース記録)と整合性が取れている必要があります。「加算を取りたいから」と過大に評価をつけると、実地指導で指摘されるリスクがあります。必ず根拠となるエビデンス(具体的な行動記録)を残してください。
3. 計画作成の壁:個別支援計画への「具体策」明記
加算を算定する児童の「通所支援計画(個別支援計画)」には、以下の記載が必須です。
- 強度行動障害の状態(アセスメント結果)
- それに対する具体的な支援内容(環境調整、手順書の提示など)
「見守りを強化する」といった抽象的な表現では不十分です。「カームダウンエリアへ誘導する」「絵カードを用いてスケジュールを提示する」など、研修で学んだ知識に基づいた具体的な手法を記載し、保護者の同意を得てください。
現場を崩壊させないための「経営判断」と「対応策」
経営者が加算取得(=困難事例の受け入れ)を決断した際、現場からは「怪我が怖い」「他の子の対応がおろそかになる」といった悲鳴が上がることがあります。
ここで現場を守れるかどうかが、経営者の手腕です。
研修は「行かせて終わり」ではない
「強度行動障害支援者養成研修(基礎研修)」に行かせただけでは、現場は変わりません。戻ってきたスタッフを中心に、事業所全体で知識を共有する時間を設けてください。氷山モデルの共有: 問題行動(氷山の一角)の背景にある要因をチームで分析する文化を作る。
構造化の実践: パーテーションでの区切りや、視覚的支援など、物理的な環境整備(ハード面)への投資を惜しまないでください。これは経営者の仕事です。
「断る勇気」も必要(アセスメントの徹底)
加算欲しさに、自事業所のスペック(人員配置や設備)を超えた児童を受け入れることは、事故のもとです。
「今の体制で安全に支援できるか?」を冷静に判断し、無理な場合は断る、あるいは行政や相談支援専門員と連携して段階的な受け入れを模索する姿勢が、結果として事業所を守ります。
この加算が「最強の集客装置」になる理由
ここからは、福祉経営カイゼン室独自の視点です。
強度行動障害児支援加算への取り組みは、単なる単価アップ以上に、「集客(利用獲得)の自動化」をもたらします。
相談支援専門員からの「絶大な信頼」を獲得できる
地域の相談支援専門員は、常に頭を悩ませています。
「行動障害が重くて、どこも受け入れてくれないお子さんを、どこに繋げばいいのか……」
そんな時、「うちは強度行動障害の研修を受けたスタッフが複数いて、構造化などの専門的支援に取り組んでいます」と言える事業所があればどうでしょうか?
相談員にとって、貴所は「困った時に頼れる駆け込み寺」となります。
一度このポジションを確立すれば、困難事例だけでなく、一般的な発達支援が必要な児童の紹介も優先的に回ってくるようになります。これが「専門性による差別化」であり、広告費をかけない最強の集客戦略です。
保護者の口コミと安心感
「あそこは先生たちが勉強熱心で、難しい子もしっかり見てくれる」という評判は、保護者ネットワークで瞬く間に広がります。専門性を高めることは、保護者の安心感に直結し、利用継続率(LTV)の向上にも寄与します。
まとめ:専門性を高め、地域になくてはならないインフラへ
強度行動障害児支援加算は、要件が厳格で現場の負担も大きい加算です。しかし、それを乗り越えることは、事業所の「質」と「経営体力」を飛躍的に高めます。
- 戦略的な人材育成(研修受講とシフト管理)
- 根拠に基づいたアセスメントと記録
- 環境整備への投資とチーム支援
このサイクルを回すことで、貴所は地域で唯一無二の「選ばれる事業所」へと進化します。
まずは、次回の研修スケジュールを確認し、核となるスタッフを送り出す準備から始めてみてください。
そして、磨き上げたその「専門性」や「強み」は、適切な場所でアピールしなければ埋もれてしまいます。
質の高い療育を求める保護者やケアマネジャーに、貴所の情報を正しく届ける準備はできていますか?
