障害福祉サービス(児童発達支援・放課後等デイサービス)の経営者にとって、現在もっとも頭の痛い課題。それは集客でも資金繰りでもなく、間違いなく「児童発達支援管理責任者(児発管)の採用」でしょう。

「年収500万円で募集しても応募がゼロ」
「紹介会社(エージェント)の手数料が高すぎて利益が吹っ飛ぶ」
「採用したものの、要件不備が発覚して減算対象になった」

これらは決して大げさな話ではなく、現場で頻発している「経営事故」です。
児発管は事業所の配置基準上の「要」であり、欠員が出れば即座に減算、最悪の場合は指定取り消しや営業停止のリスクに直結します。つまり、児発管の採用力は、そのまま「事業の存続能力」と同義なのです。

しかし、嘆いていても人は来ません。制度は複雑化していますが、令和5年度の制度改正により「要件緩和(OJT期間の短縮)」という追い風も吹いています。このチャンスを正しく理解し、戦略的に動ける経営者だけが、優秀な人材を適正コストで確保できます。

本記事では、福祉経営の「カイゼン」を支援する専門家の視点から、複雑怪奇な「実務経験・研修要件(最新版)」の攻略法「競合に勝つ給料設定」、そして「選ばれる事業所になるための採用・定着戦略」を徹底解説します。

曖昧な精神論ではなく、明日からの経営判断に使える「具体的なノウハウ」を持ち帰ってください。


1. なぜ「児発管」の採用は難しいのか?

敵を知り己を知れば百戦危うからず。まずは、なぜこれほどまでに採用が難しいのか、市場の構造的な欠陥を直視しましょう。

圧倒的な「売り手市場」とエージェント依存

厚生労働省の資料や業界動向を見ても、障害児通所支援事業所は右肩上がりで増加しています。対して、要件を満たす児発管の供給は追いついていません。
結果として、求職者1人に対して多数の事業所が群がる構図となり、人材紹介会社(エージェント)の手数料相場は「想定年収の30〜35%(100〜150万円程度)」まで高騰しています。この採用コストが経営を圧迫しているのが現状です。

制度の複雑化による「有資格者の埋没」

頻繁な制度改正により、「実は要件を満たしているのに、自分が児発管になれると知らない保育士」や、「研修受講のタイミングを逃して資格失効している元・児発管」が市場に埋もれています。
経営者が正しい知識を持ち、こうした「隠れ児発管候補」を発掘できるかが、採用成功の分かれ道となります。


2. 【令和5年改正対応】経営者が知るべき「実務経験・研修」の攻略法

ここが本記事の核です。人事担当任せにせず、経営者自身が必ず理解してください。特に「OJT期間の短縮特例」は、採用の幅を広げる強力な武器になります。
※最終的な判断は必ず管轄の自治体(指定権者)に確認してください。

① 必須となる「実務経験」の基本ライン

基本は以下のいずれかの経験年数が必要です。相談支援業務(5年以上): 相談支援事業所、就労支援などでの経験。
直接支援業務(8年以上): 無資格で障害福祉、介護、医療現場等で従事した場合。
有資格者の直接支援業務(5年以上):ここが採用のメインルートです。保育士、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士などの国家資格等を持ち、その業務に5年以上従事しているケース。

【経営者のチェックポイント】
求職者から提出される「実務経験証明書」は、必ず「日数」も確認してください。「5年以上かつ900日以上」といった日数要件が満たされていないと、却下されます。特にパート勤務の長かった求職者は要注意です。

② 研修要件の「緩和」を使いこなす(基礎研修+実践研修)

児発管になるための基本ステップは以下の通りです。

  1. 基礎研修の修了
  2. OJT(実務経験)2年以上
  3. 実践研修の修了

従来、基礎研修修了後に「2年」の実務経験(OJT)が必要でしたが、令和5年度の改正により、以下の要件を満たせば「6ヶ月」に短縮可能となりました。個別支援計画作成の業務に従事すること(補助業務でも可)
やむを得ない事由により児発管が欠員した場合(※自治体により解釈が異なるため要確認)

この特例を使えば、「基礎研修を終えたばかりの優秀な人材」を採用し、最短半年で正規の児発管(実践研修修了)に育成するというルートが開けます。「経験者」の奪い合いから脱却し、「ポテンシャル採用」へシフトできるのです。

③ 「みなし配置」のリスクと期限管理

「基礎研修修了者」は、実践研修未修了でも、児発管欠員時などに限り「みなし児発管」として最長1年間(やむを得ない事由等は要確認)配置できるケースがあります。
しかし、これはあくまで時限措置です。「いつまでに実践研修を受けさせなければならないか」を管理できていないと、期限切れで「人員欠如減算(所定単位数の70%〜50%に減算)」という経営的致命傷を負います。採用時に「研修受講計画」をセットで考えることが必須です。


3. 競合に負けない「給料・待遇」の設計図

「うちはアットホームだから安くても人が来る」という幻想は捨ててください。児発管は高度専門職であり、市場価値に見合った対価が必要です。

児発管のリアルな給料相場(月給)

地域や事業規模によりますが、採用競争力を持つラインは以下の通りです。未経験(要件満たす・基礎研修済): 26万円 〜 30万円
経験者(即戦力・実践研修済): 32万円 〜 38万円
管理者兼務(プレイングマネージャー): 35万円 〜 45万円以上

【カイゼンの視点】
求人票に「月給25万円〜」と書くのと、「月給32万円(処遇改善手当含む)」と書くのでは、クリック率が段違いです。
福祉・介護職員処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算。これらを原資とし、基本給+各種手当で「総支給額」を高く見せる設計を行ってください。

「年収提示」で安心感を与える

月給だけでなく、賞与を含めた「想定年収」を明記しましょう。「年収450万円以上可」という表記は、将来の生活設計を気にする30代〜40代のコア層に強く響きます。


4. 「選ばれる事業所」になるための採用戦略(経営カイゼン)

給与条件を整えたら、次は「どう伝えるか」です。求職者は「激務で使い潰されること」を最も恐れています。

① 求人票は「業務の切り分け」で勝負する

児発管の不満No.1は「事務作業が終わらず、子どもと関われない」または「現場に入りすぎて事務が終わらない」ことのジレンマです。NG例: 「子どもたちと一緒に楽しく過ごせる職場です!」
OK例: 「請求業務は本部事務員が代行。送迎業務なし。個別支援計画の作成とモニタリングに集中できる環境です(残業月10h以下)」

このように、「経営側が業務負担を構造的に減らしている」事実をアピールしてください。これは「この経営者は現場を分かっている」という信頼に繋がります。

② ダイレクトリクルーティングへの転換

高額な紹介会社に頼り切りでは利益が出ません。
自社採用サイト(LP)の強化: 「Findcare.jp」のような福祉特化型プラットフォームや、Indeed、Googleしごと検索に対応した自社ページを持つ。
リファラル採用(紹介)へのインセンティブ: 職員の紹介で採用できた場合、紹介会社に払うはずだった100万円の一部(例:10〜30万円)を職員に還元する。職員も喜び、定着率の高い人材が確保できます。

③ 「内部登用」という最強のルート

外部採用が難航する場合、自社の保育士や指導員の中から「実は要件を満たしそうな人」を見つけ、会社負担で研修に行ってもらうのが最も確実です。
「資格取得支援制度」や「研修日の出勤扱い」を整備し、「ウチで働けば児発管になれる」というキャリアパスを提示することは、他のスタッフの離職防止にも効果的です。


5. 採用後の「定着」こそが最大の利益確保

採用コスト100万円をかけて採用した人材が、3ヶ月で辞めれば大赤字です。定着率を高めるには「放置しない」ことに尽きます。オンボーディング(定着支援): 入社初日にPCやアカウントが用意されているか? 業務マニュアルはあるか? 最初の1週間が勝負です。
ICTによる効率化: 手書きの日報や連絡帳は時代遅れです。LITALICOやHUGなどの業務支援システムを導入し、事務時間を物理的に削減してください。
定期的な1on1: 児発管は現場と経営の板挟みになりがちで、孤独です。経営者が月1回でも話を聞く時間を設けるだけで、離職率は下がります。

まとめ

児発管の採用難は、今後さらに加速します。
しかし、これは逆に言えば「採用力のある事業所だけが生き残り、シェアを拡大できる」チャンスでもあります。

  1. 令和5年改正(OJT短縮)などの制度をハックし、採用ターゲットを広げる。
  2. 処遇改善加算をフル活用し、競争力のある給与を提示する。
  3. 「業務の切り出し」と「ICT化」で、選ばれる労働環境を作る。

これらはすべて、人事担当者ではなく「経営者」の決断領域です。
「人がいない」と嘆く前に、自社の採用戦略と労働環境の「カイゼン」に着手しましょう。その本気度は、必ず求職者に伝わります。