「人材紹介会社に150万円払って採用したサビ管が、わずか半年で退職してしまった」
「ハローワークに求人を出しても、半年以上応募がゼロ。面接に来ても要件を満たしていない」
「基礎研修と実践研修、結局いつになったら配置できるのか制度が複雑すぎてわからない」
障害福祉事業の経営者様から、こうした悲鳴にも似た相談が後を絶ちません。
サービス管理責任者(以下、サビ管)は、事業所の指定基準を満たすための「要」であり、配置できなければ即座に「人員欠如減算(3割〜5割減)」、最悪の場合は「指定取り消し」に直結する、経営上の生命線です。
しかし、現在は空前の「売り手市場」。単に給与を少し上げて募集をかけるだけの従来型の手法では、この採用難を乗り切ることは不可能です。
この記事では、福祉業界の経営改善(カイゼン)を専門とする視点から、「なぜ採用できないのか」という市場構造を解き明かし、令和5年度改正で変更された「実務経験短縮(最短6ヶ月)」などの制度知識、そして「採用・育成・定着」を成功させるための具体的な経営戦略を解説します。
採用コストをドブに捨てないために、今こそ「行き当たりばったり」の人事から脱却し、強固な組織を作るための戦略をインストールしてください。
なぜ今、サビ管の採用はこれほど「無理ゲー」化しているのか?
まずは敵を知ることから始めましょう。なぜこれほどまでにサビ管の採用は困難を極めているのでしょうか。そこには「需給バランスの崩壊」と「制度の壁」という構造的な理由があります。
1. 有効求人倍率の高騰と「紹介料バブル」
障害福祉サービスの事業所数は年々増加していますが、要件を満たすサビ管(有資格者)の供給ペースが全く追いついていません。
地域によっては、サビ管の有効求人倍率が3倍〜5倍を超えることも珍しくありません。
この需給ギャップにより、人材紹介会社(エージェント)の手数料も高騰傾向にあります。一般的に年収の30%〜35%が相場ですが、サビ管の場合は一人採用するのに100万円〜150万円以上のコストがかかるケースが常態化しています。中小規模の事業所にとって、このコスト負担は経営を圧迫する大きな要因です。
2. 研修制度の厳格化による「有資格者の枯渇」
2019年度(令和元年度)の制度改正により、研修体系が「基礎研修」と「実践研修」に分割され、さらにその間に「OJT(実務経験)」が必要となりました。
これにより、「資格を取りたくても、最短で数年かかる」というタイムラグが発生。新たに即戦力のサビ管が市場に生まれにくい状況が続いており、既存の「実践研修修了者」を全事業所が奪い合っているのが現状です。
経営者が絶対に知っておくべき「サビ管要件」の落とし穴と特例
採用面接や内部登用を行う際、経営者自身が要件を正確に理解していないと、採用後に「実は配置できなかった」という致命的なミス(配置基準違反)につながります。
特に、令和5年度(2023年度)の改正ポイントは、育成スピードを劇的に変える可能性があるため必読です。
※自治体(指定権者)によってローカルルールが存在する場合があるため、最終確認は必ず管轄の行政窓口へ行ってください。
必須となる「実務経験」の基本パターン
サビ管になるための実務経験年数は、保有資格や職種によって異なります(3年〜8年)。有資格者(国家資格等): 相談支援業務や直接支援業務で通算3〜5年以上
無資格者: 直接支援業務などで通算8年以上
【カイゼンの視点】
採用時の盲点は「実務経験証明書」です。前職の法人が倒産していたり、円満退社でなかったりして証明書が入手できないケースが多発しています。内定を出す前に、「証明書の手配が可能か」を必ず確認してください。
【重要】「基礎研修」後のOJT期間短縮(最短6ヶ月)の特例
ここが経営戦略上の最重要ポイントです。
従来、基礎研修修了後に実践研修を受けるためには「2年以上」の実務経験(OJT)が必要でしたが、令和5年度の改正により、以下の要件を満たせば「最短6ヶ月」に短縮可能となりました。
- 基礎研修受講時にすでに実務経験要件(3〜8年)を満たしていること
- 障害福祉サービス事業所等において、「個別支援計画作成の業務」に従事すること(※配置されているサビ管の指導下で行うこと)
- 上記2の業務を行う旨を、事前に指定権者(自治体)へ届け出ていること
この「6ヶ月特例」を活用できるか否かで、内部育成にかかる時間が1年半も変わります。これからサビ管を目指すスタッフがいる場合、必ずこのルートに乗せられるよう、自治体への届出準備を進めてください。
「みなし配置」はあくまで時限措置
サビ管が退職した場合など、やむを得ない事由がある場合に限り、実務経験要件を満たし基礎研修を修了している者を「サビ管とみなして」配置できる特例があります。
しかし、これはあくまで「配置から1年以内に実践研修を修了しなければならない」という厳しい制約付きです。
昨今は研修の定員オーバーにより、「申し込みをしたのに抽選で落ちて受講できない」という事態が頻発しています。受講できなければ「みなし期間」が終了し、即減算・指定取り消しリスクに晒されます。「みなし配置」は恒久的な対策ではなく、あくまで緊急避難措置と捉えてください。
「採用できない」から脱却するための具体的戦略
外部環境を変えることはできませんが、自社の「戦い方」を変えることは可能です。採用難を突破し、組織を強化する3つのアプローチを提案します。
1. 採用チャネルの多角化と「選ばれる理由」の提示
高額な紹介会社だけに依存するのはリスクが高いです。求職者は複数の媒体を見ています。Indeedや求人ボックスの活用(ダイレクトリクルーティング): 「サビ管 残業なし」「サビ管 ICT活用」など、ニッチなキーワードで検索する層を狙います。
自社サイト(採用ページ)の強化: 求職者は必ず法人のホームページを見ます。そこで「利用者の笑顔」だけでなく、「スタッフの働きやすさ(DXへの取り組み、記録業務の簡素化)」が具体的にアピールされていますか?
【カイゼンの視点】
「記録ソフト導入済みで手書きゼロ」「請求業務は事務員が担当」といった具体的な業務負担軽減のアピールは、激務に疲れた経験者サビ管にとって、給与額以上に強力な武器になります。
2. 最もROI(投資対効果)が高いのは「内部育成」
外部採用が困難かつ高コストである以上、最も確実なのは「自社のスタッフをサビ管に育てる」ことです。キャリアパスの明示: 「入社3年で基礎研修、その後6ヶ月のOJTを経てサビ管へ」というロードマップを提示し、研修費用と交通費は全額会社負担とする。
「6ヶ月特例」の活用: 前述した特例を活用し、サビ管補助として計画作成業務に従事させ、最短ルートで資格取得を支援する。
内部昇格者は、法人の理念や利用者様との関係性がすでに構築されているため、ミスマッチによる早期離職リスクが極めて低くなります。採用コスト150万円をかけるくらいなら、その分を既存スタッフの研修費や手当に回す方が、長期的には賢明な投資です。
3. 離職を防ぐ「業務の切り分け」と「評価制度」
苦労して確保したサビ管が辞める最大の理由は「業務過多」と「孤立」です。サビ管は何でも屋ではありません。業務の分業化: 送迎、請求事務、シフト作成など、サビ管資格が不要な業務は徹底的に事務員や他のスタッフへ移管する。「サビ管しかできない仕事(アセスメント、モニタリング、計画作成、関係機関連携)」に集中できる環境を作ります。
稼働率連動型の評価: 「事業所の稼働率が○%を超えたら、サビ管手当を○万円アップ」など、経営数値と連動した明確なインセンティブを設ける。これにより、サビ管が経営者目線を持ちやすくなり、モチベーション維持につながります。
人材確保の原資を作るのは「集客力」と「経営基盤」
サビ管の採用・育成には、コストと時間がかかります。
高い給与を提示して良い人材を確保し、長く働いてもらうためには、その原資となる「売上の安定(高稼働率の維持)」が不可欠です。
「人がいないから集客できない」
「集客できないから利益が出ず、良い条件が出せないから人が来ない」
この「負のループ」を断ち切るためには、採用活動(守り)と並行して、効率的な集客(攻め)の仕組みを構築する必要があります。「Web集客で安定的に利用者獲得ができる」→「高稼働で利益が出る」→「給与やICT投資に還元できる」→「人が集まる」という「正のループ」へ転換することこそが、本質的な解決策です。
まとめ
サービス管理責任者の採用難は、今後さらに加速することが予想されます。
「いつか良い人が来るだろう」という神頼みの経営では、事業存続のリスクは高まるばかりです。
- 「6ヶ月特例」などの制度要件を正しく理解し、最短ルートでの育成計画を立てる。
- 「ICT化」や「分業」をアピールし、選ばれる事業所になる。
- 採用コストを賄えるだけの「集客力(稼働率)」を確保する。
この3点を軸に、組織としての人材戦略を見直してみてください。
特に「内部育成」は時間がかかりますが、今始めなければ1年後も同じ悩みを抱えることになります。まずは、自社のスタッフの中に「未来のサビ管候補」がいないか、要件確認と面談から始めてみてはいかがでしょうか。
