障害福祉サービス(放課後等デイサービスや就労継続支援B型など)を経営する上で、「送迎加算」は収益のベースラインを支える重要な収入源です。しかし、この加算は実地指導(監査)において最も指摘を受けやすく、返還命令につながりやすい「ハイリスク」な項目でもあります。

「片道だけでも本当に算定していいのか?」
「同一敷地内のグループホームへの送迎はなぜNGなのか?」
「ドライバーの人件費とガソリン代を引いても、本当に利益が出ているのか?」

このような疑問や不安を抱えたまま運用していませんか?
本記事では、単なる「要件の解説」にとどまらず、「実地指導をクリアするコンプライアンス」「利益を残すための経営判断」という2つの視点から、送迎加算を徹底解剖します。
曖昧な理解を排除し、強固な経営基盤を作りましょう。


送迎加算とは? 2024年度報酬改定対応の基礎知識

送迎加算は、利用者が自力で通所困難な場合に、事業所が車両で送迎を行うことで算定できる加算です。しかし、経営者がまず押さえるべきは「単価」ではなく、「自社のサービスで算定可能な条件」を正確に把握することです。

対象サービスと単位数(主な例)

地域区分や定員規模により実際の金額(円)は変動しますが、基本となる単位数は以下の通りです。

1. 放課後等デイサービス(児童発達支援含む)

通常: 54単位/回(片道)
重症心身障害児: 37単位/回(片道)
* ※重症心身障害児の場合、運転手に加えて看護職員等の配置が必要なケースがあり、要件が厳格化されています。

2. 就労継続支援B型(生活介護、就労移行支援、就労A型含む)

通常: 21単位/回(片道)
送迎体制強化加算:
* 送迎加算を算定している事業所が、週3回以上、常勤換算に含めない専任の運転手を配置して送迎を行う場合などに、さらに上乗せで算定可能です(定員20人以下で24単位/日など)。

【経営者の視点】
就労B型の「21単位(約210円)」は一見少額に見えますが、定員20名で毎日往復稼働すれば、月間で約15〜20万円の収益差になります。これはパート職員1〜2名分の人件費に相当するため、決して軽視できません。


「片道」だけでも算定できる? 具体的なOK/NG事例

検索キーワードでも頻出する「片道」の取り扱い。結論から言えば、送迎加算は「1回(片道)」ごとの算定が可能です。しかし、どこからどこへ送っても良いわけではありません。

ケース別:算定可否チェックリスト

ケース送迎ルート算定可否備考
片道のみ行き:保護者送迎
帰り:事業所送迎
帰りの1回分のみ算定可能。
学校連携学校 → 事業所 → 自宅放デイの基本パターン。往復(2回分)算定可。
中抜け事業所 → 習い事 → 事業所×サービス提供時間内の中抜け送迎は算定不可。
居宅外事業所 → 祖父母宅事前に届出があり、実質的な保護者の管理下にある場合は認められる傾向(要自治体確認)。
立ち寄り事業所 → コンビニ → 自宅×寄り道は原則NG。最短経路での運行が求められます。

「学校」と「自宅」以外の場所への送迎リスク

放課後等デイサービスにおいて、「塾へ送ってほしい」「駅まで送ってほしい」という要望を受けることがあります。
しかし、原則として送迎加算の対象地点は「居宅(自宅)」または「学校」です。
「サービスの一環として駅まで送る」こと自体は妨げられませんが、その区間の「加算算定は不可」となるケースが大半です。これを誤って請求すると、不正請求とみなされます。


実地指導で狙われる「同一敷地内・同一建物」の落とし穴

「車に乗せた事実」があっても、加算が取れない、あるいは減算されるケースがあります。特に障害福祉サービス経営者が誤認しやすいのがこの領域です。

1. 同一敷地内・隣接敷地への送迎(原則対象外)

【対象】 就労継続支援B型とグループホーム(GH)を併設している法人など
【ルール】 事業所と同一敷地内、または道路を挟んで隣接する敷地にあるGHへの送迎は、送迎加算の算定対象外です。理由: 「歩いて通える距離であり、車両送迎の合理的理由がない」と判断されるため。
例外: 利用者の身体障害の状態(歩行困難など)により、車両移動が不可欠であると認められる場合は算定可能なことがあります。ただし、これには医師の診断書やケアプランへの明記など、客観的な根拠が必要です。

2. 同一建物内への送迎(70%への減算)

【対象】 マンションやGHなど、同じ建物に住む複数の利用者を送迎する場合
【ルール】 同一敷地内ではないものの、「同一建物」に居住する利用者に対して送迎を行う場合、所定単位数の70%に減算(×0.7)して算定しなければなりません。例: 通常54単位 → 37単位(放デイの場合)
注意: 「同じ場所から乗せるのだから効率が良いだろう」という理屈で報酬が減らされています。これを満額請求していると、過去に遡って返還を求められます。


送迎業務を「コスト」から「投資」へ変える経営戦略

送迎は「手間がかかる作業」ですが、見方を変えれば「強力な集客ツール」であり「信頼構築の場」です。編集長として、以下の3つの視点で業務を見直すことを提案します。

1. 「赤字送迎」を見極める損益分岐点分析

遠方の利用者を獲得するために送迎エリアを広げすぎていませんか?
「片道21単位(約200円)」のために、往復1時間かけて職員1名とガソリン代を拘束するのは、経営的には赤字です。
商圏の見直し: 片道20〜30分圏内に集中させる。
ルート最適化: AI配車システムの導入や、Googleマップを活用したルート固定化で、無駄な走行距離を削減する。

2. コンプライアンス遵守が最大のリスクヘッジ

車両要件: 必ず事業所として届出済みの車両を使用すること。職員個人のマイカー送迎で事故が起きた場合、保険が適用されないだけでなく、組織としての管理責任を問われ、事業停止のリスクすらあります。
記録の徹底: 「送迎記録簿(運行記録)」は必須です。誰が、いつ、どこからどこへ運転し、誰が同乗したか。これが実地指導での唯一のエビデンスになります。

3. MEO対策(Googleマップ集客)との連動

送迎時のスタッフの態度は、保護者や近隣住民に常に見られています。
保護者対応: 玄関先での引き渡し時に「今日〇〇さんがこんなことを頑張っていましたよ」と一言添えるだけで、信頼度は跳ね上がります。
口コミ獲得: この信頼の積み重ねが、Googleマップでの高評価レビュー(口コミ)につながります。「送迎の方の対応が丁寧で安心できる」という口コミは、新規利用者を呼び込む最強の広告になります。



まとめ:適正な加算取得は「質の高い支援」への第一歩

送迎加算は、放課後等デイサービスや就労継続支援B型の経営において、決して無視できない収益源です。しかし、その算定要件は「片道・往復」の区分や「同一敷地内」の制限など、複雑なルールの上に成り立っています。

  1. 原則と例外を理解する: 「片道」はOKだが、「中抜け」はNG。「同一敷地内」は原則NGだが、身体状況による例外がある。
  2. 経営視点を持つ: 加算を取るためのコスト(人件費・燃料費)が収益を上回らないよう、エリア戦略を練る。
  3. 質を高める: 安全運転と接遇マナーを徹底し、送迎を集客(MEO)につなげる。

これらを徹底することで、送迎業務は単なる移動手段から、事業所のブランド価値を高める重要なサービスへと進化します。正しい知識でリスクを回避し、健全な経営を目指してください。