「突然、児童発達支援管理責任者(児発管)から退職届を出された」
「採用活動をしているが、要件を満たす人材が全く見つからない」

障害児通所支援事業所(児童発達支援・放課後等デイサービス)を経営する皆様にとって、児発管の不在は、単なる「人手不足」ではありません。事業の存続そのものを揺るがす「経営上の緊急事態(クライシス)」です。

配置基準を満たせなくなった場合に適用される「人員欠如減算」は非常にペナルティが重く、基本報酬の大幅カットに加え、各種加算の算定も不可となるケースが大半です。この状態が数ヶ月続けば、キャッシュフローが悪化し、最悪の場合、指定取り消しや閉鎖に追い込まれる恐れすらあります。

本記事では、福祉経営の「カイゼン」を支援する専門家の視点から、児発管の欠如減算の具体的な仕組み(減算開始時期や金額シミュレーション)、複雑化する配置基準・研修要件の再確認、そしてこの危機を乗り越えるための「緊急採用」と「根本的な組織防衛策」について解説します。

焦る気持ちを抑え、まずは正しい知識で現状を把握し、最善の手を打ちましょう。


1. 児童発達支援管理責任者(児発管)の「欠如減算」とは?経営へのインパクト

まず直視しなければならないのは、児発管が不在となった場合に発生する「人員欠如減算」の厳しさです。これは単なる注意勧告ではなく、実質的な「兵糧攻め」とも言える厳しい経営ペナルティです。

減算が適用されるタイミング(いつから?)

児発管が退職し、後任が決まらないまま不在となった場合、即座に翌月から減算されるわけではありません。採用活動のための猶予期間(経過措置)が設けられています。欠如した月(退職月): 減算なし
欠如した月の翌月: 減算なし(猶予期間)
欠如した月の翌々月:減算開始

【具体例】3月31日に退職した場合(4月1日から不在)
4月いっぱいは猶予期間となり、5月サービス提供分(6月請求分)から減算が適用されます。
つまり、「退職から1ヶ月以内(翌月末まで)」に後任を配置できなければ、減算は避けられないということです。

減算の割合と金額シミュレーション

欠如減算の減算率は、期間が長引くほど重くなります。

  1. 減算開始から4ヶ月目まで:所定単位数の30%を減算
  2. 減算開始から5ヶ月目以上:所定単位数の50%を減算

【30%減算の経営インパクト試算】

例えば、月間売上(報酬請求額)が200万円の事業所の場合:
通常時: 200万円
30%減算時:140万円(−60万円)

毎月60万円の利益が吹き飛ぶ計算です。さらに恐ろしいのは、「児童指導員等加配加算」などの主要な加算も算定できなくなる可能性が高い点です。これらを合わせると、実質的な減収幅は売上の半減近くに達することもあります。利益率の低い福祉事業において、これは即ち「赤字転落」を意味します。

「みなし配置」などの特例はあるか?

「研修を受けていないスタッフを暫定的に置けないか?」という相談をよく頂きますが、原則として要件(実務経験+研修修了)を満たさない人物を児発管として配置することはできません。

ただし、以下のような「やむを得ない事由」がある場合に限り、自治体との協議の上で特例(みなし配置)が認められるケースがあります。 急な死亡、失踪
病気や怪我による急な退職(診断書等が必要な場合あり)

単なる「自己都合退職」や「採用難」では認められないのが一般的です。自己判断せず、必ず管轄の指定権者(都道府県や市町村)へ確認してください。


2. 児発管の「配置基準」と「要件」を再確認(最新版)

採用活動を行う上で、候補者が「本当に児発管として配置できるのか」を見極める知識が必須です。制度改正により要件は複雑化しており、ここを間違えると採用しても配置できないという悲劇が起こります。

実務経験の要件

児発管になるためには、以下のいずれかの実務経験が必要です。相談支援業務: 5年以上(有資格者は3年以上の場合あり)
直接支援業務: 8年以上(有資格者は5年以上の場合あり)
* ※保育士、社会福祉士、教員免許などの国家資格を持っている場合、期間が短縮されます。

必須研修(基礎研修・実践研修)とOJT要件

現在は研修体系が変わり、「基礎研修」と「実践研修」の2段階になっています。

  1. 相談支援従事者初任者研修 + 児童発達支援管理責任者基礎研修
  2. (基礎研修修了後、2年以上のOJT実務経験)
  3. 児童発達支援管理責任者実践研修

【重要】「実践研修」未修了者の扱い

「基礎研修」だけを修了している人は、あくまで「2人目の児発管」として配置する場合や、OJT期間中の扱いとなります。1人配置の事業所でメインの児発管として配置するには、原則として「実践研修」まで修了している必要があります。

※ただし、令和5年度以降、一定の要件(個別支援計画作成業務に従事するなど)を満たせば、OJT期間を「2年」から「6ヶ月」に短縮できる特例措置も設けられています。この特例を使えば、基礎研修修了者を早期に実践研修へ送り出し、児発管として配置できる可能性があります。この辺りの最新ルールは自治体によって運用が異なるため、必ず確認してください。


3. 欠如減算を回避するための緊急対応と採用戦略

1ヶ月という短い猶予期間で後任を見つけるのは至難の業です。しかし、手をこまねいている時間はありません。以下の手順で即座に動いてください。

1. 自治体への変更届と相談(隠蔽は絶対NG)

「バレなければ大丈夫だろう」と欠如を隠して請求を続けることは、不正請求にあたります。発覚すれば指定取消や数倍の返還金を求められます。
児発管が退職した時点で、速やかに指定権者へ「変更届(体制届)」を提出し、「現在、全力で採用活動中である」旨を伝え、指導を仰いでください。誠実な対応が、最悪の事態(指定取消)を防ぎます。

2. 管理者との兼務検討

もし、現在配置されている「管理者」が児発管の要件(実務経験+研修)を満たしているのであれば、「管理者兼児童発達支援管理責任者」として配置変更することで、急場をしのげる場合があります。まずは社内の人材リソース(資格証・研修修了証)を総点検してください。

3. あらゆる手段を使った採用活動(コストを惜しまない)

ハローワーク等の無料媒体だけで待つのはリスクが高すぎます。減算による損失(月数十万〜百万)を考えれば、採用コストをかけてでも即戦力を確保すべきです。人材紹介会社(エージェント): 手数料(年収の30%〜35%程度)は高額ですが、背に腹は代えられません。スピード重視なら最も確実性が高い手段です。
リファラル採用(紹介): 既存スタッフの知人や、過去の応募者にアプローチします。紹介謝礼金(インセンティブ)を一時的に増額し、スタッフ全員で探す体制を作ります。
ダイレクトリクルーティング: Indeedや求人ボックス、SNS(XやInstagram)を活用し、地域の有資格者に直接アプローチします。「年収アップ」「残業なし」など、強烈なオファーを提示する必要があります。


4. 採用難・人材不足を根本から解決する「選ばれる事業所」づくり

今回の危機を乗り越えたとしても、将来また同じことが起こる可能性があります。
児発管のなり手不足は深刻です。給与競争だけでは大手には勝てません。求職者に選ばれるためには、経営そのものの「質」を高める必要があります。

労働環境と待遇の見直し(ICTと分業)

児発管は現場業務に加え、個別支援計画の作成、モニタリング、保護者対応、請求業務など、膨大な業務を抱えがちです。「業務過多」が退職の最大の原因です。
ICTツール(請求ソフトや連絡帳アプリ)の導入で事務作業を効率化したり、現場業務を他のスタッフに任せる分業体制を整えたりすることで、「ここなら長く働けそうだ」と思ってもらえる環境を作りましょう。

「集客力」が「採用力」に直結する理由

実は、「集客がうまくいっている(稼働率が高い)事業所」は採用にも強いという事実があります。

  1. 収益が安定するため、給与や研修費に投資できる: 高い給与提示や、エージェント利用が可能になります。
  2. 活気があり、スタッフのモチベーションが高い: 閑散とした事業所はスタッフの不安を招き、離職を誘発します。
  3. 地域での評判が良い: 「人気のある事業所」というブランドは、求職者にとっても魅力的に映ります。

逆に、利用者が少なく経営が不安定な事業所には、優秀な人材(児発管クラス)は寄り付きません。
「児発管がいないから運営できない」と嘆く前に、事業所の魅力を高め、地域No.1の評判を作ること。それが結果として、優秀な人材を引き寄せる磁石となります。

経営のカイゼンは、集客・採用・定着、すべてがつながっています。
まずは目の前の欠如対応を全力で行いつつ、次のステップとして「人が辞めない、人が集まる強い経営基盤」を作っていきませんか?

まとめ

児童発達支援管理責任者の欠如は、事業所の存続に関わる重大な経営課題です。
減算は「欠如した月の翌々月」から始まり、30%〜50%という大幅な減収をもたらします。

  1. 速やかに自治体へ報告・相談する(隠蔽は厳禁)。
  2. 管理者の兼務や、社内リソースを再確認する。
  3. 減算コストと比較し、有料媒体や紹介会社も躊躇なく使う。
  4. 要件(実務経験・研修・OJT特例)を厳密にチェックする。

そして、この危機を脱した後は、二度と同じ轍を踏まないよう、内部育成(サビ管・児発管予備軍の研修受講)と「選ばれる事業所づくり」に経営資源を投資してください。
安定した経営と集客力こそが、最高の人材定着策です。