障害福祉サービス事業所の経営者様にとって、もっとも胃が痛くなる瞬間の一つ。それは、運営の要である「サービス管理責任者(サビ管)」から退職届を出された時ではないでしょうか。
昨今の福祉業界における人材不足は深刻を極めており、サビ管の有効求人倍率は地域によっては非常に高騰しています。「辞められたら困る」という足元を見られ、マネジメントが機能不全に陥っているケースも散見されます。
しかし、経営者として最も恐れるべきは、サビ管不在によって引き起こされる「人員欠如減算」という名のペナルティです。これは単なる減収にとどまらず、事業所の存続そのものを脅かします。
「具体的にいくら売上が下がるのか?」
「採用できない間、どうやって凌げばいいのか?」
「経験が浅い職員をサビ管に登用できる特例はないのか?」
本記事では、福祉経営のコンサルティング現場で培った知見をもとに、減算による損失シミュレーションから、最新の研修要件(OJT短縮特例)を活用した採用戦略、そして不在時の緊急対応策(みなし配置)までを徹底解説します。
制度という「ルール」を正しく理解し、事業所を守るための武器としてください。
経営を破壊する「人員欠如減算」の衝撃と損失シミュレーション
サービス管理責任者は指定基準上の「必置職員」です。そのため、欠員が出た状態で運営を続けると、報酬請求において極めて重いペナルティ(減算)が科されます。まずは敵を知ることから始めましょう。
【減算率】開始2ヶ月は30%減、3ヶ月目以降は50%減
人員欠如減算の恐ろしさは、その減算率の高さにあります。基本報酬だけでなく、加算を含めた総単位数に対して以下の減算が適用されるのが一般的です(※サービス種別により詳細は異なります)。
- 減算開始から2ヶ月目まで:所定単位数の30%を減算
- 減算開始から3ヶ月目以降:所定単位数の50%を減算
さらに致命的なのは、人員欠如減算が適用されている間は、原則として「処遇改善加算」などの主要な加算も算定できなくなる点です。
【シミュレーション】月商400万円の事業所なら損失はいくらか?
では、具体的にどれくらいのインパクトがあるのか、就労継続支援B型事業所(定員20名)を例にシミュレーションしてみましょう。通常時の月商:約400万円(基本報酬+各種加算)
サビ管が退職し、後任が決まらず減算開始
▼ 減算1〜2ヶ月目(30%減算+加算停止)
売上は一気に約250万円前後まで落ち込む可能性があります。
(※基本報酬の7割支給に加え、処遇改善加算等が全額カットされるため)
⇒ 月間損失:約150万円
▼ 減算3ヶ月目以降(50%減算+加算停止)
売上は約150万円〜180万円程度まで激減します。
⇒ 月間損失:約200万円以上
家賃や人件費(サビ管以外のスタッフ)は変わらず発生するため、この状態で黒字を維持できる事業所はほぼ存在しません。つまり、サビ管欠如減算は「数ヶ月続けば倒産・閉鎖」を意味するのです。
減算開始のタイミング(翌々月)と「遡及適用」の恐怖
減算が開始されるのは、原則として「人員基準を満たさなくなった月」の翌々月からです。例:4月15日にサビ管が退職(4月中に後任決まらず)
* 4月:減算なし
* 5月:減算なし(猶予期間)
* 6月:減算開始(5月末までに後任配置・届出が必要)
ここで注意すべきは、「バレなければいいだろう」と届出を遅らせることです。実地指導などで発覚した場合、退職した日まで遡って減算が適用(返還請求)されるだけでなく、「不正請求」として指定取消処分の対象になります。絶対に隠してはいけません。
採用ミスを防ぐ!サビ管の「配置基準」と「要件」チェックリスト
減算を避けるためには、基準を満たす人材を配置し続けるしかありません。しかし、制度が複雑なため「採用したけど要件を満たしていなかった」というトラブルが後を絶ちません。
利用者数に応じた配置数と「兼務」の落とし穴
基本的な配置基準(就労系・生活介護等の場合)は以下の通りです。利用者数60人以下: 1人以上(常勤・専従が原則)
利用者数61人以上: 1人に加え、利用者数に応じて非常勤等の追加配置が必要
【重要:兼務のルール】
サビ管は「管理者」との兼務は認められていますが、「直接処遇職員(生活支援員・職業指導員)」との兼務は原則不可です。
「人手が足りないからサビ管も現場に入って」と指示し、実態としてサビ管業務を行えていないと見なされれば、実地指導で指摘を受けます。サビ管はあくまで「マネジメント・計画作成」の専従職であることを忘れないでください。
面接で必ず確認すべき「実務経験証明書」の罠
サビ管になるには「実務経験(3年〜8年)」と「研修修了」の両方が必要です。
採用面接時、本人の「経験あります」という言葉だけを信じるのは危険です。前の職場から「実務経験証明書」が確実に発行されるか、またその期間が要件を満たしているかを必ず確認してください。
「前の職場と喧嘩別れしていて証明書が出ない」「実は期間が足りなかった」というケースは頻発します。内定を出す前に、証明書の提出を条件にすることをお勧めします。
採用難を突破する「研修制度」と「OJT短縮特例」の活用
「完成されたサビ管(有資格者)」の採用は、現在非常に困難です。そこで重要になるのが、自社で育てる、あるいは研修途中の方を採用するという戦略です。
基礎研修・実践研修の2段階構造と「正式配置」までの道のり
現在のサビ管研修制度は以下の2段階になっています。
- 基礎研修の受講(相談支援従事者初任者研修+サビ管基礎研修)
- 実務経験(OJT)(原則2年)
- 実践研修の受講 ⇒ ここで初めて「サビ管」として配置可能
つまり、基礎研修を受けただけでは、すぐにサビ管として一人立ちできません。これが採用のハードルを上げています。
【採用戦略】「6ヶ月ルール(短縮特例)」で未経験者を早期戦力化する
この「2年のOJT期間」が長すぎるという声を受け、令和5年度より要件が緩和されました。
以下の要件を満たし、指定権者に届出を行うことで、OJT期間が「最短6ヶ月」に短縮されます。 基礎研修受講時にすでに実務経験要件(3〜8年)を満たしていること
障害福祉サービス事業所等で個別支援計画作成業務に従事すること
これにより、「基礎研修修了者を採用し、自社で半年間OJTを行ってから実践研修を受けさせ、サビ管にする」というルートが現実的になりました。
完成されたサビ管を探すよりも、基礎研修修了者をターゲットにする方が、採用母集団は圧倒的に広がります。この制度を活用しない手はありません。
明日からサビ管がいない!不在時の緊急対応マニュアル
どれほど対策しても、急な退職や病気による離脱は起こり得ます。サビ管不在が確定した瞬間に動くべきアクションプランを提示します。
最優先は行政への報告。「隠蔽」が指定取消を招く理由
サビ管がいなくなった翌日には、管轄の障害福祉課へ電話を入れてください。
「急な退職で不在になりました。現在求人を出していますが、〇〇までの対応について相談させてください」
このように正直に報告し、指導を仰ぐ姿勢を見せることが、行政との信頼関係を守り、最悪の処分を回避する第一歩です。
救済措置「みなし配置」の適用条件と絶対的な期限(1年)
やむを得ない事由(急な退職、死亡など)で欠如した場合、特例として「みなし配置」が認められるケースがあります。内容: 「実務経験要件」は満たしているが、「研修」を修了していない職員を、暫定的にサビ管として配置できる。
期間: 欠如した月から最長1年間。
条件: 期間内に必ず研修を修了させること。
この制度を使えば、社内のベテラン職員(無資格)を一時的にサビ管として登録し、その間に研修を受けてもらうことで、1年間は減算を回避できます。
ただし、これはあくまで「1年限定の猶予」です。1年以内に研修を修了できなければ、即座に減算対象となります。自治体への事前の届出が必須ですので、必ず窓口で手続きを行ってください。
サビ管に「選ばれる」事業所になるための経営カイゼン
ここまで「制度」の話をしてきましたが、最後に「経営」の話をします。
なぜ、あなたの事業所からサビ管は辞めてしまうのでしょうか? なぜ、新しいサビ管が来てくれないのでしょうか?
採用難の本質は「給与負け」と「業務過多」にある
サビ管は売り手市場です。求職者は「給与」と「業務負担」をシビアに比較しています。
「現場業務も兼務させられてヘトヘト」「加算を取っていないから給与が低い」――このような事業所からは、人材は流出します。
サビ管をつなぎ止めるための「リテンション(定着)施策」なしに、採用活動を行っても、穴の空いたバケツに水を注ぐようなものです。
集客と収益を安定させ、人材に投資できる「強い経営」へ
サビ管に「選ばれる」事業所になるためには、以下のサイクルを回す必要があります。
- 安定した集客(高稼働率)を実現する。
- 売上が安定することで、事務員や支援員を増員し、サビ管の業務負担を減らす。
- 加算をしっかり取得し、サビ管の給与水準を地域相場より高く設定する。
つまり、「集客力」と「収益基盤」こそが、最強の人材確保策なのです。
「人がいないから集客できない」ではなく、「集客の仕組みを作り、収益を上げるからこそ、良い人が集まる」という発想の転換が必要です。
私たち「福祉経営カイゼン室」では、サビ管不在リスクに怯えないための「強い経営体質づくり」を、集客と運営の両面からサポートしています。
まとめ
サービス管理責任者の欠如減算は、月商の30%〜50%を失う経営上の猛毒です。
まずは「翌々月から減算」「遡及適用のリスク」を正しく理解し、OJT短縮特例などの最新制度を駆使して採用の網を広げてください。万が一の際は、隠蔽せずに「みなし配置」を行政に相談しましょう。
そして何より重要なのは、「サビ管が辞めない、集まる環境」を作ることです。
人材リスクを根本から解決するために、まずは自社の「集客力」と「収益構造」を見直すことから始めてみませんか?
